研究内容:鹿又助教

研究キーワード:Pickeringエマルション、不斉合成、触媒反応、量子化学計算、機械学習

鹿又助教はこれまでに理学部、工学部、農学部での研究経験があり、有機合成化学を基盤としながら幅広い分野で実績を挙げてきました。2020年7月に大阪大学大学院薬学研究科に着任して以降は、両親媒性ナノ粒子が作るPickeringエマルションに着目し、酵素反応や有機分子触媒の技術を融合しながら、新しい医薬品製造プロセスの開発研究を開始しました。また、量子化学計算による触媒反応のメカニズム解析、機械学習を用いた反応解析手法の開発などにも取り組んでいます。

研究業績(PDF)
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Pickeringエマルションを反応場とする触媒反応

両親媒性のナノ粒子やポリマーが乳化作用を示すことは古くから知られており、これらの“固体”により形成されるエマルションはPickeringエマルションと呼ばれています。食品・化粧品業界などで注目されているPickeringエマルションですが、私たちのチームではこれを有機合成反応の反応場として用いる研究を行っています。
Pickeringエマルションでは、水と油(有機溶媒)の界面をナノ粒子の層が覆うことで、両者が安定に分離しています。従って、分子のサイズや溶解性を巧みにデザインすることで、本来は共存し得ない触媒や反応剤どうしでも、Pickeringエマルション中では安定に取り扱うことが可能になります。またPickeringエマルション中で反応を行った場合、比表面積が大きくて反応効率が高い、遠心分離でナノ粒子が沈殿するため後処理が容易である、といった利点もあるため、医薬品など精密化成品の製造プロセスへの応用を目指して研究に取り組んでいます。
 最近、私たちは酵素リパーゼと硫酸水溶液をPickeringエマルション中で用い、2つの触媒反応を組み合わせたアルコールの動的速度論的光学分割(DKR)法を開発しました(下図)。本来は酸の共存で変性・失活してしまう酵素が、ナノ粒子での相分離によってその活性を維持できることを明らかにしました。また、反応の一部を水中で進行させることで、これまで有機溶媒中で行った場合に問題となっていた副反応の抑制にも成功しています。

[代表論文]

[1] J. Moon, T. Kin, K. Mizuno, S. Akai, K. Kanomata, ChemCatChem, in press (e202300878).
[2] K. Kanomata, N. Fukuda, T. Miyata, P. Y. Lam, T. Takano, Y. Tobimatsu, T. Kitaoka, ACS Sustainable Chemistry & Engineering, 8, 1185–1194 (2020).

有機分子触媒による不斉合成反応の開発と反応機構解析

レアメタル等の資源枯渇が懸念される中、金属元素を含まない「有機分子触媒」を用いる反応が、医薬品合成をはじめ様々な化学産業で注目されています。私たちは有機分子触媒の中でも、とくに不斉ブレンステッド酸を用いた触媒反応の開発研究を行っています。新奇触媒反応の探索研究に加え、コンピュータでの量子化学計算による遷移状態の解析も駆使しながら、水素結合や非古典的C–H…O型水素結合、π-スタッキング相互作用に着目した反応開発を行っています。

[代表論文]

[1] K. Kanomata, Y. Nagasawa, Y. Shibata, M. Yamanaka, F. Egawa, J. Kikuchi, M. Terada, Chemistry – A European Journal, 26, 3364–3372 (2020).
[2] K. Kanomata, Y. Toda, Y. Shibata, M. Yamanaka, S. Tsuzuki, I. D. Gridnev, M. Terada, Chemical Science, 5, 3515–3523 (2014).